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山口県における同和行政・教育のまとめ・本文
平成17年(2005年)9月
1 これまでの取組と実績
(1)同和問題解決への取組
同和行政
山口県は、同和対策の推進を県政の重要施策と位置付け、昭和29年(1954年)に山口県部落問題対策審議会(以下「部対審」という。)を設置し、戦後の同和問題解決への取組を本格的に開始した。
当初は、部対審委員による現地調査を踏まえての県単独事業を実施するものであったが、昭和31年度(1956年度)からは厚生省(現:厚生労働省)の補助事業を受け入れ、昭和35年度(1960年度)からは国の同和対策要綱に基づく総合的な同和対策事業(モデル事業)の積極的な導入に努めた。
更に、昭和44年(1969年)から特別措置法に基づく総合的な対策が開始されると、昭和46年(1971年)の「同和対策を計画的に推進するための基本的方策」についての部対審答申や、昭和48年 (1973年)の「同和対策の部門別具体的方策」についての部対審建議を踏まえ、昭和48年(1973年)に「同和対策基本計画」を策定し、部対審の意見を聞きながら、特別措置法に基づく国の事業の計画的な導入と、国の事業を補完する単県事業の充実に努め、市町村、関係団体との連携を図り、関係者の理解と協力を得て一体性や公平性に留意し、同和問題の早期解決をめざしての同和対策事業を総合的、計画的に取り組んできた。
このように実施してきた本県の同和対策事業についても、平成9年度(1997年度)には、国における特別対策を終了する方向での事業の見直しに合わせ、単県事業を30事業から12事業に縮小するとともに、平成10年(1998年)の「山口県における今後の同和行政のあり方」についての部対審答申に沿った対応に努めてきた。
こうした中、国は特別措置法に基づく特別対策を平成13年度(2001年度)末に終了すること、また、平成10年(1998年)の部対審答申で示された地区道路、農道、林道、下水道、住宅改善等を中心にした施設整備や各種貸付金、進学奨励費等の個人対象事業の推進により生活環境や産業基盤の改善が進み、関係住民の生活水準の向上などいわゆる実態的差別の解消は大きく前進するとともに、同和教育、啓発の取組により県民の同和問題に対する理解も進んできたとの認識を踏まえ、県の特別対策は、経過措置が必要な一部の単県事業を残して、平成13年度(2001年度)末をもって終了した。
現在は、施策ニーズに対しては他の地域と同様に必要とされる施策を適宜適切に実施するとともに、市町村、関係団体の協力を得て、県民一人ひとりの人権が尊重された心豊かな地域社会の実現をめざす「山口県人権推進指針(平成14年(2002年)3月策定。以下「人権推進指針」という。)」に基づき、人権尊重の視点に立った啓発活動を推進しているところである。
同和教育
山口県における戦後の教育分野での取組は、同和教育の推進が求められる中、昭和27年(1952年)の第一次「同和教育の基本方針」の策定に始まり、昭和28年(1953年)から指導者の養成に重点を置いた同和教育講習会を開催した。昭和29年(1954年)に部対審が設置されると、その意見を踏まえながら、昭和31年度(1956年度)からの地区別同和教育指導者講習会の開催、昭和33年度(1958年度)からの集会所の設置、昭和34年度(1959年度)からの同和教育研究指定校、同和教育推進指定地区の設置など、同和教育関係事業への積極的な取組を図るとともに、昭和35年(1960年)には第二次「同和教育の方針」を策定し、これに基づく教育の充実に努めてきた。
昭和45年(1970年)には、「同和対策審議会答申(昭和40年(1965年))」や「同和対策事業特別措置法(昭和44年(1969年)制定)」を踏まえて第三次「山口県同和教育の方針」を策定し、その後、昭和46年(1971年)の部対審答申に示された同和対策を推進する上での教育の果たすべき役割の重要性などについての意見や、昭和48年(1973年)の「同和対策の部門別具体的方策について」の建議を踏まえながら、学校同和教育、社会同和教育における推進体制の整備を図るとともに、諸事業の積極的な展開に努めた。
平成6年(1994年)には第四次「山口県同和教育の方針」を策定し、その中で同和教育については、日本国憲法及び教育基本法の精神にのっとり、同和問題に対する正しい認識と豊かな人権感覚を育む教育として取り組むこととし、従来どおり教育の中立性を堅持しながら推進した。
県教育委員会では、こうした取組を通して県民の同和問題に対する理解が深まる中、国において特別対策を終了するという方向に合わせ、それまでの同和教育関係26事業を見直し、平成9年度(1997年度)から順次、廃止や整理・統合をするなど適切な対応に努めた。このように実施してきた本県における同和教育関係事業については、国の動向や平成10年(1998年)の部対審答申における「県民の同和問題に対する理解も深まってきており、成果は全体的には着実に進展している」との指摘等を踏まえ、平成13年度(2001年度)末をもって経過措置が必要な一部の事業を残して全て終了した。
県教育委員会では、平成14年度(2002年度)から同和教育課を人権教育課に改編するとともに、人権推進指針等に基づき人権教育を総合的かつ効果的に推進しているところである。
(2)事業の実施状況
県において、部対審を設置後、同和対策として実施してきた事業の主なものは、以下のとおりである。
- 環境改善対策
居住水準の改善や社会資本の整備を促進するため、次のような対策を講じた。
ア
住宅整備については、国の事業である住宅地区改良事業、小集落地区改良事業等による施設整備の実施と、住宅新築・改修・取得資金貸付制度等の積極的な導入を図るとともに、県単独事業として住宅関係の制度融資の創設、がけ地対策などを実施してきた。
イ
地区道路、下水排水路等の整備については、地区道路整備、橋梁整備、下水排水路整備、下水道整備等の社会資本の整備に資する事業の積極的な導入を図ってきた。 - 保健衛生対策
公衆衛生の向上を図るとともに、住民の健康管理に対する意識高揚を図るため、次のような対策を講じた。
ア
保健衛生については、上水道整備事業、ゴミ焼却炉設置事業、墓地移転事業等の実施により、環境整備を図ってきた。
イ
住民の健康管理については、巡回保健指導、妊婦・乳幼児健康診断等を計画的に実施し、衛生思想の普及にも努めてきた。 - 社会福祉対策
住民の自立意欲の高揚や児童の健全育成を図るとともに、高齢者が健康な生活を営むことができるよう、次のような対策を講じた。
ア
隣保館の整備及び活動の促進については、国の事業の積極的な導入に努め、地域の実情に応じた施設整備と活動の促進を図ってきた。
イ
保育所、児童館等については、地域の実情に応じた積極的な整備を図り、留守家庭児童の健全育成に努めるとともに、老人の生きがいを高めるための「憩いの家」等の整備を図ってきた。
ウ
県単独事業である同和福祉援護資金は、制度創設以来、地域住民に真に必要とされるよう制度の改善を図ってきた。 - 農林業対策
農林業生産の合理化及び生産力の向上を図るため、次のような対策を講じた。
ア
農林業の生産基盤整備については、ほ場整備、かんがい排水・暗きょ排水、農道、林道の整備等、国事業の積極的な導入を図ってきた。
イ
農林業の経営近代化については、共同利用の農機具購入、共同作業所・共同加工所の整備等を図るとともに、農業近代化に資する資金貸付制度の導入、経営改善普及、指導員の設置等に努めてきた。 - 中小企業対策
中小企業の経営改善を図るため、次のような対策を講じた。
ア
中小企業対策については、中小企業高度化資金貸付制度の活用とともに、県単独事業として特別資金の貸付け・利子補給等を実施するなど、必要な制度改正に努めてきた。
イ
経営指導員による企業者に対する経営指導を実施することにより、企業の経営改善に取り組んできた。 - 職業対策
住民の就業促進に資するため、次のような対策を講じた。
ア
職業訓練については、国制度の活用とともに県制度の充実に努め、就業促進に資する各種の職業訓練の充実と給付事業等による訓練機会の確保に努めてきた。
イ
大型共同作業場の整備を行い、地域の雇用促進に努めてきた。
ウ
新規学卒者に対し、就職の促進と定着の指導に努めてきた。 - 教育対策
教育においては、県、市町村、各学校における同和教育推進体制を確立し、指導者の養成や指導資料等の整備を図るとともに、児童生徒を対象とした学校教育や県民を対象とした社会教育を積極的に推進するため、次のような対策を講じた。
ア
学校教育においては、研究協議会や地区別の研修会を開催し、管理職や主担当教員等の指導者をはじめ教職員の資質向上を図るとともに、児童生徒の発達段階や地域の実態に即した指導資料や実践事例集等の資料の整備を図ってきた。
また、教育条件を整備し教育水準を高めるため、学力促進学級の開設事業や進学奨励費貸与事業等を実施するとともに、適切な進路指導の推進に努めてきた。
イ
社会教育においては、地域における指導者養成のための講座や研修会を開催するとともに、指導資料や啓発用映画フィルム等の整備を図ってきた。
また、集会所の施設設備を整備し、学習活動や交流活動への支援を行うとともに、市町村が実施する同和教育推進組織運営事業や講座開設事業等の社会同和教育活動に対する補助事業も行ってきた。 - 人権擁護対策
差別事象に対しては、所管の法務局や人権擁護委員との連携の下に、適切な処理を行うとともに、事象に応じた啓発等に努めてきた。
(3)実績
本県の同和問題の早期解決を図るために実施してきた同和対策事業は、県及び市町村において関係者の理解と協力を得て実施してきた結果、おおむねその目的を達成できたことから、平成13年度(2001年度)末をもって終了した。
これまで実施してきた総額は、平成13年度(2001年度)末において約1,573億円(生活環境等の施設整備事業に約850億円、個人対象事業・その他の事業に約723億円)となっている。
施設整備事業約850億円の内訳は、地区道路・橋梁、下水道、住宅地区改良、小集落地区改良等の環境部門約623億円、かんがい排水・暗きょ排水、農道、林道等の経済部門約212億円、集会所等の教育部門約15億円となっており、個人対象事業・その他の事業約723億円の内訳は、住宅新築資金、同和福祉援護資金、隣保館運営、一般啓発指導等の環境部門約409億円、同和対策資金(事業者貸付)等の経済部門約206億円、高校・大学修学資金(給付・貸付)等の教育部門約107億円となっている。
2 平成10年の部対審答申後の取組
(1)同和行政推進の基本的な考え方
県は、答申において示された、一般施策を有効適切に活用することによって残された課題の解決に努めることが必要であり、また、今後の人権尊重施策の推進に当たってはこれまでの同和教育や啓発事業の中で積み上げられてきた成果とこれまでの手法への評価を踏まえ、人権問題という本質から捉えた施策を講じるべきである、との提言を受け、一般対策による取組を進めるとともに、人権推進指針を策定し、同和問題は人権に関わる課題の一つとして捉え、県民一人ひとりの人権の尊重をめざすという視点に立って必要な施策を実施している。
(2)人権尊重の視点に立った教育・啓発の推進
県は、答申において、今日までの教育、啓発活動の推進により、県民の同和問題についての理解が深まり、人権意識の高揚を図る上で多くの成果が上がってきたとの認識の下で示された、基本的人権を尊重するという視点に立った人権諸施策を積極的に推進するという方向に沿って、次のように取り組んでいる。
- 教育
県教育委員会としては、日本国憲法及び教育基本法の精神にのっとり、これまでの同和教育の取組の成果と手法への評価を十分に踏まえ、基本的人権を尊重していくための人権教育を推進している。 - 啓発
県は、県民一人ひとりが同和問題に対する正しい理解と認識を深め、残された課題の解決に向けて主体的に取り組むことができるよう、市町村や関係機関と連携し、人権尊重の視点に立った啓発活動を推進している。
(3)事業の在り方
県は、国の動向や答申で示された事業の方向性を踏まえ、特別対策は平成13年度末をもって、一部の経過措置を残して終了した。
現在は、施策ニーズに対しては他の地域と同様に必要とされる施策を適宜適切に実施している。
また、県のこのような状況については、市町村に対しても周知し、関係市町村において適切な対応を取るよう要請も行っている。
(4)県と市町村との連携
県は、これまで市町村と一致協力して同和問題の解決に取り組んできたが、今後とも、国、県の基本的方向を踏まえた人権行政の確立については、県及び市町村が適切な役割分担と緊密な連携のもとに創意と工夫をこらし、広報や研修等幅広い活動に努めて行く。
また、市町村が同和対策事業により設置してきた隣保館等の老朽化の問題や地域に開かれたコミュニティーセンターとしての運営についても市町村と連携を密にし適切な指導を行っている。
(5)施策の適正な推進
- 行政の主体性の確立
県はこれまで、市町村、関係団体、関係住民等の理解と協力を得ながら、同和問題解決のための対策を推進する上では「一体性や公平性の確保」「適切な行政運営」が重要であるとの認識の下、行政が主体性をもって、事業の適正化等について取り組んできた。
今後とも、行政の主体性の確立については、引き続き努力していく。 - えせ同和行為の排除
県としては、答申で示されたとおり、同和問題を口実として行われる不当な要求、不法な行為などのえせ同和行為は、同和問題解決の阻害要因となっていると認識している。
このため、このようなえせ同和行為を排除するためには、今後とも、法務局等関係機関とも連携を図りながら、行政、企業・事業所等、さらに県民が一体となって、毅然として対処できるよう必要な情報提供、研修等に取り組んでいく。
3 行政体制
(1)行政組織
同和行政の担当部署は、昭和29年(1954年)当時は労働民生部社会課生活係で、昭和42年(1967年)の労働民生部同和対策室を経て、昭和48年(1973年)には民生部同和対策課を設置して同和行政に取り組んできた。更に、平成9年(1997年)4月、人権全般にわたる取組を積極的に進めていくため健康福祉部人権対策室に改組した。
また、教育関係の担当部署は、昭和29年(1954年)当時は社会教育課、指導課であったが、昭和45年(1970年)に社会教育課に同和教育係を置き、昭和47(1972年)には同和教育振興室として独立させ、学校同和教育、社会同和教育に総合的に取り組むための推進体制を確立した。更に昭和48年(1973年)に同和教育課を設置し推進してきたが、平成14年(2002年)4月には、基本的人権を尊重していくための人権教育を総合的かつ効果的に推進するために人権教育課に改編した。
(2)山口県部落問題対策審議会
県は、昭和29年(1954年)に国に先駆けて「部落問題解決のために県が実施する具体的な対策について調査審議し、建議する」との目的で「山口県部落問題対策審議会」を設置した。
部対審は、毎年度、数回の審議と必要に応じた現地調査を実施するとともに、昭和42年度(1967年度)には個別・具体的な課題について集中的に実態調査、審議を行うため環境、経済、教育の3つの専門部会を設置した。
また、昭和46年(1971年)には「同和対策を計画的に推進するための基本的方策」について答申し、昭和48年(1973年)には「同和対策の部門別具体的方策」を建議した。
更に、平成8年度(1996年度)に総括部会を設置して特別措置法失効に向けた本県の同和対策のあり方を集中審議し、平成10年(1998年)の「山口県における今後の同和行政のあり方」についての答申においては、それまでの成果等を踏まえた今後の同和行政・教育の方向について提言した。
県は、この答申で示された、これまでの成果等を踏まえ、また、経過措置法が4年後には失効することから、審議会の今後のあり方について検討する必要がある、との提言を踏まえ、平成11年(1999年)には委員数の縮小を行い、平成13年度(2001年度)末で特別対策を終了し一般対策を実施している現在、部対審は審議会としての役割を終えたものと考えている。
4 まとめ
県においては、戦後五十余年にわたり、同和対策の推進を県政の重要施策と位置付け、部対審の意見を聞きながら、市町村、関係団体との連携を図り、県民をはじめ、関係者の理解と協力を得て一体性や公平性に留意し、同和問題の早期解決に向けて同和対策事業を総合的、計画的に取り組んできたところである。
こうした中、県は、平成10年(1998年)には部対審から特別措置法の失効に向けた「山口県における今後の同和行政のあり方」についての答申を受け、その後はこの答申に沿った取組を行ってきた。
その結果、県としては、国の特別対策の終了に合わせ、これまでの成果は全体的に着実に上がったとの認識により、平成13年度(2001年度)末をもって同和問題解決のための特別対策については終了した。
しかしながら、平成10年(1998年)の部対審答申で示された偏見の解消等については、市町村、関係団体の協力を得て、県民一人ひとりの人権が尊重された心豊かな地域社会の実現をめざす人権推進指針に基づき、県民一人ひとりが同和問題に対する正しい理解を深め、主体的に取り組むことができるよう、人権尊重の視点に立った教育・啓発活動を推進しているところである。
終わりに、今回の「同和行政・教育のまとめ」を行うに至ったことは、県民の皆様をはじめ、市町村及び関係者の方々のこれまでの同和問題解決への御尽力と御協力の賜であり、深く感謝と敬意を表する次第である。